2017年2月24日
長尾成一様より、旧制東洋女子歯科医学専門学校指定後12回生・長尾嘉子様が1933~37(昭和8~12)年の在学中に使用したデンタルボックス3点、足踏みエンジン(ケース入り)、薬箱、及びこれら各ケース収納歯科用器具約220点、その他をご寄贈いただく。
これまで断片的に出てきた実習用器具、器械の全容と思われます。当時の学生(正しくは生徒)一人が在学中に揃えた器具、器械をほぼ網羅しているでしょう。
実習に用いる器具、器械は貸与品でなく各自が購入し、卒業後は持ち帰って引き続き使いました。長尾(旧姓:亀山)様は戦時中に歯科医師免許を返納され、経年劣化が進む前に保存されることになり、良好なコンディションを保ちつつ散逸も防がれました。
ご寄贈いただいた資料は以下の通りです。
- 昭和12年度臨床実習簿
- 木製大型デンタルボックス 器具79点(ミツワ歯科商店製東洋女歯オリジナル)
- 「治療箱機械整頓位置図」(上記ボックス内器具配置図。今回最大の資料と思います)
- 革製大型デンタルボックス 器具など40点
- 木製小型デンタルボックス 器具12点(ミツワ歯科商店製東洋女歯オリジナル)
- 木製ケース入K.S.K.ベルト式足踏みエンジン(アーム等5分割)
- 木製ケース入薬びん×10
長尾嘉子様は水力発電所建設技師の娘として1917(大正6)年に岩手県二戸でお生まれになれ、愛知県豊橋の高等女学校を経て1933年、東洋女子歯科医専に入学、1937年に卒業されました。本年早々、満百歳となられました。百寿をお祝い申し上げます。
ご寄贈に際してはご子息長尾成一様のお手を煩わせ、また、ご母堂様の経歴についてご教示を賜りました。この場にてあらためて御礼申し上げます。
参考:
2008年4月1日 指定後23回生使用大型デンタルボックス
2012年1月13日 指定後9回生使用小型デンタルボックス
2012年6月25日 指定後4回使用生大型デンタルボックス
2014年10月14日 指定後14回臨床実習簿
2015年3月27日 指定後13回使用ミツワ歯科商店製器具
2015年9月30日 指定後13回使用薬箱
2016年5月23日 杉本歯科医院の革製デンタルボックス
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上記リンク(2012年6月25日)指定後4回生(在学1925~1929)使用品と外観、サイズ、仕様ともほぼ同一ながら、指定後4回生用は合名会社中澤歯科器械製造社製、今回はミツワ歯科商店の製品です。ミツワは宇田尚校長の夫人、宇田愛(戦後、学校法人東洋学園理事長)の実家である庄司家の経営によるもので、同社製品の流通は東洋女子歯科医専内に限られていたと考えられます(リンク2015年3月27日参照)。同社銘板は写真8で紹介します。 |
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使用されなくなってから80年以上経過し、一部錆が生じていますが、ボックス内の器具もミツワ歯科商店製です。以前の13回生使用品と同様、所有者の姓が一つ一つ刻印され、メーカー名THE MITSUWADENTAL MFG.COも読み取れます。ボックス、器具とも大手メーカー品に対し遜色のない仕上がりと見受けられます。 |
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新品と見まごうほどの良好な保存状態。全て戦前のものです。この引き出しは中澤製を含むミツワ以外の他社製品です。 |
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臨床実習簿。全ての実習を済ませた完了印が捺印されています。2年後の指定後14回生(リンク2014年10月14日参照)の実習簿とは総ページ数が異なり、少しずつ改訂されていることが分かります。 |
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昨年(2016年)5月23日に大阪市柏原市の杉本歯科医院(杉本歯科医院の歯のMuseum)を訪問した際、初めて革ケースを目にしました(リンク2016年5月23日、写真4・5参照)。 その時は用途が分かりませんでしたが、蓋を開けてみると義歯製作用の器具、製作した総義歯が納められていました。 |
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義歯製作用のトレー。紙とその印字まできれいに残り、昨日のもののようですが、「号」が旧字で戦前のものです。 |
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木製小型デンタルボックス。指定後9回生が使用したケース(リンク2012年1月13日参照)とはサイズが異なります。 |
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ミツワ歯科商店銘板。 |
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木製ケース入ベルト式足踏みエンジン。歯科用切削器具です。アーム、ハンドピースなどに5分割され収納されています。動力を発生するエンジン部(フライホイール、足踏みペダルなど)は重い鋳鋼でできており、ここには含まれません。 K.S.K.(木村工作所)の社名は変わっていますが今日も盛業中です。 |
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木製ケース入薬びん×10。指定後9回生の使用品(リンク2015年9月30日参照)とほぼ同形ながら、蓋の留め金に所有者の姓の刻印がありません。 |