文京区タウン誌『本郷／小石川／白山 街の本　空（ＫＵＵ）』連載（Ｗｅｂ増補版）

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『本郷／小石川／白山　街の本　空』　３３号　２０１１年７月

東洋学園大学と文京　－ 本郷元町・弓町・壱岐坂 －

第２回

旧制東洋女子歯科医学専門学校における女性歯科医師養成は、占領政策に基づく学制改革ならびに医療制度改革によって１９５０（昭和２５）年３月に幕を閉じました。そして５月１日、同じ壱岐坂の校舎（本郷区元町２丁目、現文京区本郷１丁目本郷キャンパス１号館の位置）に新制東洋女子短期大学英語科が開学しました。

こう書くと何でもないようですが、試みに現在の歯科、医科の単科大学がある日を境に文学部に変わってしまったらと考えてみて下さい。平時にはあり得ない事態です。空襲で施設設備を失ってから５年、その間の混乱期には実に多くのことが起こり、最後に出した結論が英語・英文学系統への転換でした。

文系転換を構想し、実現したのは東洋学園創立者宇田尚（ひさし、槃山〔ばんざん〕１８８１～１９６８）の妻で、１９４６年から１９７５年まで法人※１　の理事長を務めた宇田愛でした。

宇田愛（旧姓庄司）は１８８３（明治１６）年、千葉県朝夷郡岩糸村、現在の千葉県南房総市で生まれ、女子高等師範学校附属高等女学校（現お茶の水女子大学附属、文京区大塚）と日本女子大学校英文学部本科（現日本女子大学文学部英文学科、文京区目白台）で学び、当時の女性としては稀な高い教養を身につけました。加えて高等女学校卒業の翌年、１９０１年から結婚する１９０８年までの間、小石川区高田老松町（現文京区目白台）の同仁キリスト教会女子寮ブラックマー・ホームの寮生でした。

ブラックマー・ホームは日本女性に教養を授け、その社会的地位の向上を図るために設けられ、初期は小日向台町にあって音羽の貧しい家庭の子女救済を主な目的としていましたが、高田老松町移転後は日本女子大学生寮の性格を帯びるようになります。多くのキリスト教施設、学校などと同様、海外からの献金によって建設、維持され、多大な寄付を行ったバーモント州の教会員Ｌ．ブラックマー（Lucean Blackmer）の名が冠せられました。

宇田愛は米人女性宣教師キャサリン・Ｍ・アズバン（Catherine M. Osborn）らに師事し、教会のセツルメント（隣保事業）に取り組みました。その事業の一つが今日現存する同仁美登里幼稚園です。同園は当初、慈善幼稚園と称して１９１０年に改称した際、「美登里」と名付けたのが宇田愛でした。アズバンは以下のように記しています。

「庄司愛は、ドッジ博士の被保護者の一人であり、ブラックマー・ホームが、世に送り出した最も真の宣教師精神を持った働き手の一人であった。この時期に、女子大学英文科を卒業し、幼稚園の園舎を建てる計画に、ミス・ハサウェイを助けたのは彼女であり、又美登里（若い生命）の名称を選んだのも彼女であった」
C.M. Osborn（広瀬文枝訳）『夢が実を結ぶまで　ブラックマーホーム二十年の物語』社団法人キリスト教同仁社団　１９８６年※２

結婚後は本郷区湯島天神町に住み、後年の東洋女子短期大学設立に際して集められた語学教育スタッフは、例外なく同仁キリスト教会と日本女子大学との縁で結ばれていた人々でした。目白台こそは、本郷元町に生まれた新制短大揺籃の地、ということになります。

周知のように近代の女子教育機関の多くが、内外のキリスト教伝道者によって創設されました。東洋女子短期大学の"建学"は、ささやかながらその継承者である日本人女性がこれを再現したものです。無宗教の東洋女子短期大学・東洋学園大学ですが、その誕生には近代のキリスト教ミッションと女子教育の潮流が確かに作用しており、それなしでは存在し得なかったでしょう。

東洋学園史料室では２０１１年度のミニ企画展として、「東洋女子短期大学の誕生　－第二の創立者　宇田愛とブラックマー・ホーム」を公開しています。※３

（続く）

※１　財団法人東洋女子歯科医学専門学校、１９４８年から東洋厚生財団、１９５１年から学校法人東洋学園～現在。

※２　原書は同仁教会婦人宣教師協会により１９１８年ボストンで刊行。

※３　１１月中旬～２０１２年１月は「東洋女子歯科医学専門学校と元帥・東郷平八郎」（再・最終）となります。

【ミニ企画展ピックアップ】 １９０９（明治４２）年、同仁キリスト教会慈善幼稚園のクリスマス風景です（宇田家蔵）。同園は翌１９１０年に宇田愛の命名で美登里幼稚園と改名した、現在の同仁美登里幼稚園です。目白台のキリスト教会・幼稚園と東洋学園がどのような関係にあったのか、展示と冊子で解説しています。